よしこさん徘徊デビュー
まさかと思ったがよしこさんがいない!
ベッドにいない、 トイレにいない、 靴がない、
内側からかけた玄関の錠が開いている
私が 2 階でうつらうつらしている間に
フラフラと出ていったのだ
膝の悪い母のことだ 多分そのへんをうろうろしている
家の前の道路に出て左右を見渡す
いない・・・
自転車を出してさらに範囲を広げ
路地裏まで目を凝らして探す
探す 探す
いない いないぞ・・・ (孤独のグルメ風)
車の事故、 川への転落 危険が満ちている
かなり迷った挙句、 観念した
110 番に電話する
すぐに警官が二人やってきて
家の中で事情を聞いてくれる
穏やかな言葉と裏腹にその眼はきつい
家の中を点検し色々な情報を聞き出す
事件性のある容疑者の気分を味わう
気が気ではないこちらは早く探してくれと
心の中で思っている
こまごまとした質問が続き調書を取られ
その間にも無線が絶えず入ってくる
やがて一つの情報がもたらされる
無線の声はジー、 〇〇町○丁目と告げた
近い! 見つかったのか!
二人の警官とともにそのお宅に向かう
家の中に通されるとよしこさんが
何事もなかったかのように
冷たい飲み物を飲んでリラックスしている
呼びかけにキョトンとしている
慈愛を体現したようなご婦人が優しく微笑んでいる
ひたすら恐縮して私はお礼を述べた
二キロほど離れたケーキ屋さんの前にいたという
そんな離れたところまで!歩いていったことに驚いた
片方の靴下しか履いてないしゃがみ込んでいた母にきづき
タクシーを呼んで連れてきて介抱してくれていたのだ
そのご婦人のお母様もまた同じ認知症であったという
警官二人にも礼をのべ母を連れ自宅に戻った
キョロキョロと家の中を見渡し
いぶかしげに よしこさんが呟いた
「ここは誰の家?」
デビューだけで打ち止めにして下さい^_^
よしこさんの孫の一人の誕生日の騒動でした